逃げられる漁業船は沖へ逃げた。
そこで呑まれた船もあるが、逃れた船も多数ある。
その中の一つに乗っていた人たちは、山田が燃えていく様を観ていた。
逆に陸からは想像できないが、直視出来るものはなかったそうだ。
もちろん我が町であり、我が家もそこにあり、家族もいて、色々な気持ちが入り混じったことも手伝ったと想像する。

夜が明けると役場前の火事は収束し始めた。
2M近い、あるいはそれ以上の浸水を受けても津波に流されなかった中央部の建屋は全て焼けた。
大空襲後さながらに各所に煙が上っている。
だが裏手の家はまだ燃えていた。

コミュニティセンターでは火が暴れたいだけ暴れている間、朝までに2回移動指示が出た。
その度、荷物を抱えた人々は外へ出ては又部屋へ戻ってくる。

何をやってんだ?

内の一度は、火事が裏山に燃え移りそうだからという理由だった。
役場の傍には八幡神社があり、その双方を囲んでいる山に火の手が移ろうとしている以上、確かに危険に感じられる。
役場、図書館はその山の真下にあり、1.5M程の間隔しか離れていないものの、更に隣接とは言えコミュニティセンター自体は半ば独立した状態で充分な間隔を持った鉄筋コンクリートでもあった。
役場前では金網越しに数メートルの場所で家屋が燃えていたが、センターの入り口から10M以上の直径を持つ公園風の広場を挟んでいたから、懸念の対象が津波ではなく火事なのであればむしろ安全な気がした。


時間は覚えていないが、日が昇って明るくなってからだが、隣接する図書館からもコニュニティセンターに人が集められた。
今度こそ高齢者、身障者を優先した300人の移動が始まった。
既にガソリンが入手できない状態になっていたが、とにかくセダン、ワゴン等自家用車、社会福祉協議会などの動ける車は避難者を乗せて数回往復した。

しかしだ・・・
コミュニティセンターは指定の避難所だ。なのに遮二無二移動するわけは?

単純だった。
なんと、水と食料が一食分しか確保できていなかったらしかった。
被害を受けなかった豊間根地区なら水は止まっていないし、当面の米を確保できているということだった。
この情報をどうやって得たかはさほど問題ではないだろう。
だが、憂慮すべき点は当避難所での食糧と水の確保量だ。
夕べ、缶づめパンは高齢者にしか渡さなかった。
一体何食用意できていたのか。
ここは町の中枢である避難所だ。
町の全員がこの場所に避難してくることだって考えられたことだ。
本来、最も機動力と情報を持ち、非常電源の確保も、職員も非常事態の対応を訓練されており、自衛隊、消防隊、警察全てにおいてここに本部を据え置くことが可能と考えるのが一般的ではないのか。
津波に破壊されたならばまだしも、建物自体は全くの無傷だ。
災害発生時でも一晩でみんな家に帰れるだろうと高をくくっていたに決まっている。
ここで数日過ごす可能性があることは全く考えていなかったことになる。

避難者の中に同級生たちが数人いた。
内の一人Rは水分補給を考えて近くのスーパーで横倒しになったトラックからジュース類を大量に運び出していた。
もちろんスーパーの専務に許可をもらっての行動だったが、このジュース類は波にさらされている、いわば被災物資だ。
だが、後に全部捨てることになるとしても水分確保の方向性としては正しかった、と思う。

豊間根中学校の体育館に到着すると、すでに先陣がディーゼルの大型発電機を確保していた。中学校近隣の建設会社を回って緊急提供してもらったのだと言う。
体育用マット、ブルーシート類はもう敷き詰められていたし、卓球台を使って入口からの風を塞ぐ準備もできていた。
すぐに電源ドラムの設置、ストーブの配置が始まる。
ジェットヒーターもあり、工事現場用照明がいくつか設置された。

この作業にメインで先導切った数人がこの即日から後の2週間を動かすボランティア自治体になる。
リーダーのスーさん、サブリーダーの古さん、J、R、まだ若いK、S。そして豊間根中学校校長、役場職員数名。
すぐに豊間根地区住民による炊き出しの支給が始まった。
おにぎりの配給元は全く不明だったが、コミュニティーセンターから避難所への大移動を聞きつけて、当地区住民たちが自宅から米をかき集めて食事を提供してくれていたのだ。役場支所からの伝達があったか、否かは定かではない。
住民の米提供による炊き出しは最低でも2週間続いた。
豊間根中学校は自治体の確立と、統制は山田町の中で一番早かったらしい。
自治体にはJのブラスバンドの大先輩にあたるN女史、同級生K子等も加わり確立していく。


避難所に入った初日、毛布は大幅に不足していた。
親父も逃げる時に渡したタオルケット2枚を厚めに折りたたんで掛けた。
Jは缶コーヒー3本で1枚もらえる膝かけにもならないくらいの小さいフリースブランケットを2枚もっていた。
Sに一枚貸し二人で膝にかけると壁に寄り掛かって座った。
同じように壁に寄り掛かる若者が何人もいた。
横になるのでは床の冷たさが芯まで届く。この方がまだましだ。
とはいえ少しの眠気で体温が落ち、骨から震えが湧いてきて、貧乏ゆすりのように全身がビートを打つようだ。
敷いている段ボールは微小ではあっても効果はある。
壁までは届かないが、ストーブの暖気と人が発する熱はあったわけだし、外にいるよりはるかにましだ。
避難所で夜を越せる人は全く幸運だ。
少なくとも零下の風にあおられることはなかった。
津波に追われ、手足、顔を傷つけたり、波にもまれてずぶ濡れの状態で野宿していた避難者もいた。
避難所まで食事をもらいに行って、「避難所名簿に登録していなければ食事は分けられない。」と拒否されたケースもあるらしい。
なぜこんなことになるのか・・・。

二日目、当避難所でも早くも不満があがった。
毛布がない、隣が可哀そうだとか、不公平だとか・・・
予め用意された毛布とタオルケットはまだあった。
しかし、全員には回らない。そうでなくても初日から格差がでていた。
車で逃げた人の中には、家が流されなかったので布団を確保していたり、ダウンジャケットなどのアウターを大量に持ちこんでいたからだ。
震える人と、布団にくるまりいびきを掻く人の格差はあまりに大きかった。
公平にできない以上、むやみに寝具を配給することができなかった。
高齢者、身障者を優先し、少しでも我慢できそうな人には与えなかった。
これを物資を隠していると捉える人たちが殆どだと思う。
あるなら出せ、と言うのが本音だろう。
困窮した時ほど冷静に判断しなくてはならないことに気づいていないことが多い。
どうせ火の矢の食らうことはボランティアに乗り出した時点で覚悟している。
物資が増えてくればその量に合わせて、二人で一枚から、一人一枚、そして一人二枚へと増やして行けるのだ。
枕になる座布団も最初は全く足りなかった。
座布団はブルーシートで寝る人たちを優先して、これも補給量に合わせて増やしていく。
さらに重症な人たちは狭い柔道場に移動させた。
ここなら建物が新しいため隙間風もなく、柔道用の畳もある。
下駄箱もあるから、清潔だ。
ところがこれも問題が起きる。
本来ならば柔道場は老人だけで埋め尽くされるビジュアルだった。
ところが介護が必要なため、健常者までもが優遇された場所にいる。
体育館にいる老人がその人たちよりも優先されるべきだ。だが、これは外せない。さらに「家族が一緒じゃなければ・・・。」と健常者含めて5人程まとめて優遇させてしまう。
当然、同数の高齢者は寒い体育館から移動できない。
これは厳格にできないことなのだ。
場合によっては、家族そろって波にのまれて死んでいく人たちを目撃している可能性だってあった。
どんな恐ろしい、哀しい目にあったか本人たち以外に知る由もないからだ。
我々は医者ではない。
また、こんなときに家族から引き離すことが必要なことだろうか?

三日目を過ぎると毛布やタオルケットの量が増えてきた。
食糧物資にヤクルトや牛乳、バナナ、リンゴが入って来た。
やがてカップヌードル、おむつ、タオルも増えた。
衣料も入ってくれば、靴も来る。
靴は早々に履き替えた。
津波にもまれた町の土は全て被災しているのだから本来であればその泥を踏んだ靴は捨てるなり洗って消毒する必要があったが、誰一人そこまで頭が回っていなかったし、替えの靴を持って逃げた人は殆どいなかったのではないか。
だから足元だけでも少しでも綺麗にしておきたかった。

*          *          *

ここで、よく記憶しておくべきだと思うことをいくつか上げようと思う。
まず今時、海岸付近の海水が飲めるほど綺麗だと思う人は世界中探してもそう沢山はいないだろう。
それがごった返して流れてくる。
次に、津波が何を押し流してくるか考えてみたい。
浸水した家屋の中に真っ黒な土がべったりと敷き詰められている場面は何度かテレビでご覧になっているだろう。
海底の泥と陸上の土類だ。
問題はこの泥類だ。
建屋が壊されて流れればそこにはトイレが必ずあるわけだ。
海岸部の病院が幾つも被害にあった。飲食店、スーパー、全ての商店にトイレがあるわけだ。
こういった小さな田舎町のトイレはいわゆる「ぼっとん」だ。
簡易水洗も所詮は「ぼっとん」だ。
町の下水接続工事は着手して間もなく、完全水洗が揃うのは10年後の見通しだった。
見た目はウォシュレット付きの水洗でも浄水溝を使っている。
何百人の何ヶ月かの排出物を押し流してきているか判らない。
排水路からは溢れたのだか、逆行したのだかわからないけど、一緒くたのはずだ。
災害後に町に立った時、下水の蓋がはずれていたから、そこからも溢れたにちがいない。
波が後方の区域にたどり着くまで人が死んでいれば、死に際の嘔吐物、排泄物、体のどこかを大きく切断されていたらその大量の出血もあり、鼻血もあったろう。その人がどれだけの病気を持っていたか誰が知るだろう。
それでは、猫、犬、ネズミ等の小動物はいなかったか?ゴキブリは?
人がその状態ならば、当然小動物たちも家屋の残骸に挟まれるとか押しつぶされて内臓、脳みそ、眼球その他が飛び出しはしたのではないのか?
普段でさえ空気中はおびただしい種類のウィルスが蔓延しているというのに、水中はその状態だ。
一度津波に浸水された家屋は本当ならば水洗いだけでは使用できない。
ピカピカに綺麗に見えても・・・
ウィルスは生き続ける。彼らはそんな生易しい生物じゃないはずだ。
もう随分手遅れだが、今太平洋沿岸で捕れる海産物は出来れば口にしない方が良いかもしれない。
気にしなければ別に構わないが、例えば海底から引き揚げた遺体が真っ黒だったりするらしい。
前述したが、全て雲丹だ。目、口、耳、尻の穴全てに雲丹が張り付く。
雲丹でなければ蟹だ。
これが1体だけだと思うか。否、「沢山」である。
更に海水生物はこの戻り水をガブガブ飲んで生きている状態だ。
湾岸の海が綺麗になり、せめて彼らの世代交代まで待つのが良いように思う。
実は既に魚などの死体も浮いている。
原因はわからないが、水の可能性もあると漁業の人は言っていた。

誤解のないようにしていただきたいのは、これらを食べて死ぬとか、病気に必ずなるとか言っているわけではないし、そんな確証はこれっぽちも持っていない。
あくまでも股聞きの情報で、想像をたくましくしているだけだ。

とにかくその波の中に両足を突っ込み、波が引いた後の泥を散々踏みしめて歩いたのだから当然Jもウィルスまみれだ。。
避難所の移動後、靴の裏や、ジーパンに急いでエタノールをかけてみたところで避難した全員が同じだったわけだから意味がなかったが。
少なくとも数日間は、その足で歩きまわり、土で汚れた板やブルーシートに段ボールだけ敷いて座ったり横になったり。体中毒素にまみれていたわけだから。

*          *          *

豊間根中学校では班の編成後、食事の配給から掃除分担など、それなり流れができ始めた頃、山田町にある他の避難所では問題が上がっていた。
救援物資がボランティアチームが運営する自治体によって搾取されているらしかった。
時間が経つにつれ、行政のずさんさも同時に浮き彫りになっていく。
役場の4Fには発電機で灯りをともした対策本部が設置されていた。
隣接するコミュニティセンターの2Fではストーブの前で津波の話が盛り上がる。
避難所はいくつかある。そして中心地の避難所は旧公民館を取り壊して作った小高い公園だ。
近隣の避難所の中では最も海岸に近い。
第一波でここにいた人たちは波が防波堤を越える様を目の当たりにした。

「ここでじゃ波が上がってくる!」

と第二波が来る前にコミュニティセンターに慌てて移動した。
この距離200m強。
だが、直線コースが実はない。
一度波の来る方へ向かって半旋回、つまり遠く回り込んで降りるしかない。
それからやっと、波を背にする方向へ走ることができる。
その距離は300mまで伸びてしまうことになる。
ややもすると移動の間に第二波が押し寄せる可能性は高かった。
実際に直面しないとこの土地設計の粗悪さはわからない。
結局、第二波はこの公園の縁まで上がった。
町の形状や建屋の材質が少し別だったらここも波に呑まれたわけだ。
もちろん例のごく、「ここまで波は上がらない」と思っていたわけだから、上がった後の逃げ道など考えているわけが無い。
勿論、海側から逃げてくるにはうまくいくのかも知れないが、ここを挟んで山側から逃げ上がるためには一度、波へ向かっていかなければここへは上がれないことになる。
どこからでも上がってこれる場所でない以上。避難所に適した場所で全くなかったことになる。


*               *               *

ストーブ前での被災会話に参加したことで、初めて自分が襲われたのが「第二波」だったことがわかった。
そういえば、波に襲われた直後、災害本部のスピーカーは「第三波」を警告していた。

我が家まで辿り着いた瓦礫の正体も明確になった。
海岸部の区画は南から境田町、川向町、中央町、北浜町、山田(町名と同名)と海沿いに並んでいる。
この町の中心は川向町から中央町にかけての商店街だった。
祭りには神輿が暴れ走る町だった。
第二波は全てを破壊し、その残骸が後方の長崎、八幡町、後楽町(Jの居住区)まで流れついた始末だ。
町役場は八幡町にあり後楽町と隣接している。
あのキャタピラのような音は、海岸部の建屋を次々となぎ倒し、その残骸で次の建屋を破壊し、それらをまとめて全部後方の区画に押し流してきた音だった。
流れ着いた中に遺体があったかどうか定かでない。
少なくとも我々の目には入らなかった。
しかし、この波の中にもまれていった人たちがいたことは確実だった。
海岸で岩の上に作られた「シーサイド」とサブ名を打った老人ホームは90%近くの入居者と所長を失った。

全滅した部落がいくつかあるという。
小谷鳥(こやどり)地区はその一つで、19tもの漁船が、傾きも、船底をかすりもせずに防波堤を超えてきた後、その内側に坐して今なおそのままだ。
田の浜地区は半壊滅。
織笠地区などは海抜が低いため水が引かず、什器の投入ができないらしい。
水の中に何人の遺体があるかは不明。
オランダ島(我々は大島と呼んでいる)という離れ島で、夏には巡航船が往来する海水浴場がある。
ここには多数の遺体が打ち上げられているそうだ。
山田町は漁業の町だ。
その経済を支えてきた一つ、牡蠣の養殖業。
牡蠣棚という「いかだ」状のものを無数に並べその下にぶら下がったロープに沢山の牡蠣を養殖していた。
整然と並べられていたこれらはごった換えし、今ここには牡蠣だけではなく人がぶら下がっている。
直下には泥から突き出た上半身。
右半身が欠如した誰か。
まだまだ無残な遺体が無数に回収されずそのままか、漂っている。
漁業には遠洋、近海、烏賊釣りなどいくつか種類があるが、その他にも定置網漁業がる。
もし牡蠣棚がこの状態ならば海岸の1km付近から罠を仕掛ける定置網漁業、この網にはどれくらいからまっているだろうか。
この近辺にある遺体はまだ「まし」かも知れない。
実際にこの引き波に持って行かれた木材は10km沖で見つかり、同時にそこで遺体も発見されている。
同様の行方不明者が何人いることか。
青森の船が茨城県沖で見つかるなどしたことを考えれば、流された人々も同じと考えられるだろう。
ともすればひと月の間に漂流物は30km沖まで流されるという。
ほぼ似たような状況が東日本沿岸全体に起こっていると考えて遠い見解ではないように思う。

遺体回収に関する現在作業は陸地を優先している。
腐食がはげしく、引き上げようとすると崩れてしまう可能性が高い。
今の季節ならば海水の温度は低く、保存状態をまだ少しの間は維持できることが理由らしい。
とはいえ、海底に転がる遺体に最初に群がるのは魚ではなく雲丹だそうだ。
雲丹は人の体に取り付きやすいらしく、瞬く間に食べられてしまうと、漁業関係の被災者は教えてくれた。

車で逃げたものの、何かを取りに戻った人たちが沢山流された。
警報を聞いても逃げずに呑まれた人たちが沢山いた。
逃げはしたもののゆっくり、ゆっくり歩いていた人たち。波は橋を越えてはるか上空から彼らにかぶさっていった。
何もかもみんな「ここまで波は来ない」と、津波をなめていた結果だ

海岸部に広がる町の中心部は全て海抜より少し高い程度。
どの建屋一つとして土台をせめて1M上げておこうと言う事をせずにいた。
もちろん1Mごときでは意味が無かったが、対策としては必要だった。

今回は世界に誇るいくつかの防波堤があっさり超えられるか、あるいは破壊された。
木造の建物は土台が残るのみ。コンクリートの建物は1階を全てもぬけの殻にされた。
そうだ、。
津波対策を全く考えずに4期も務めた町長を初め、町全体が津波をなめていた結果だ。
破壊された堤防は欠陥手抜き工事の可能性が高い。
折れた跡に残った支柱は直径1cmもない。小指ほどの枝がへし折られて並んでいるだけ。
何枚もの巨大な板が綺麗な切断面をあらわにして町方向に転がっている。まるで、セメダインの接着部からただ剥がれたような綺麗さだ。

J's Coffee Break Station-breaking_waterbreak

もし防波堤が損壊しなければ波の力はもう幾分かは弱まっていただろう。
とはいえ、近隣の町に建てられた防波堤はいたるところで破壊されているから、これが直接の原因とは至極言い難い。
あくまでも推論の域を出ないが、現物を見るとやはりこの粗雑さに驚愕する。

話を火災に戻そう。
とにかく想像する限りの現状では消防車は一台たりとも通れないに違いないと勝手に考えていた。
突然、ガスボンベの爆発が始まった。キノコ状の炎がいくつも上がり始めた。
核戦争の映画でよく見る光景より、炎を直視するかぎり悪魔でも飛び出し来るかと思えるようだった。

しかし、なぜ自衛隊に消火要請しないのか全員が不思議だった。

次々にガスボンベが爆発している。
少し大きな爆発は車だということだった。
ラジオによると、東日本の太平洋岸全域が津波に呑まれたらしかったから、おそらく自衛隊はここまで手が回らないのだろうと勝手に良く解釈していた。

消防団はホースを3本用意した。
火災が役場のそばぎりぎりに来るまでスタンバイしている。
炎はついにそこまで来た。
「放水開始い!」
掛け声と共に放水が始まった。
巨大な火山にスポイトで抵抗しているようで滑稽だった。でも最初からダメとわかっていても戦おうとする消防団に涙さえ出た。
30分もずディーゼル発電機での放水は限界に達した。
後はもうただ眺めるだけ。

役場の最上階に上がった。
今どんな状況なのか、見てみたいと思った。
パノラマに展望できる窓に立った。
呆然とした。

「なんだよ、これ・・・。」

まるで映画で見る地獄の風景だった。オレンジに燃え盛る町が眼下に広がった。
あの一本の煙が、今や町を焼き尽くそうとしている。

「火事がとまんないね。そこまで来たよ。」

避難の部屋に戻りつぶやいたJの報告に、2Fでじっとしていたおばさんがあきれたように言った、

「山田ぁ全部焼ぐどこ?」

火事は山田町を全部焼くつもりなの?という意味の言葉がとても重く哀しく響いた。

少しの期待はしていた。
普通に交差する路地や道路が防火壁の代わりになるはずだった。
ところが、なんの衒いもなく火は広がっていく。
実は津波は多くの家を天地、方角さえもしっちゃかめっちゃかにして道路まで押し出していた。
更に海岸域からの材木の大群がある。
つまり、この津波の後、道路は最初から存在しなかったことになったのである。
期待は裏切られた。

繰り返しガスボンベが爆発する度、炎がキノコのように膨れ上がった。
火災が相当域に広がったある時、巨大な爆発とともにコミュニティセンターの分厚い窓が割れんばかりの音を立てた。
全員が驚いて首をすくめた。
高い場所に設置された窓の向こうに巨大なキノコ炎が見えた。
その大きな爆発はガソリンスタンドだった可能性がある。
後にその方角でもっとも爆発に近いと思われる場所に立った時、そう思った。

余震は相変わらず続いている。
ストーブの周りでは濡れた靴や靴下を乾かそうと人が集まっている。
既に毛布にくるまってパイプ椅子で寝ている人。
隅に集まって、一度戻って家から持ち出してきたお菓子を配る人。

やがて「缶づめパン」が「乾パン」として配られた。
高齢者たちは知っている「乾パン」じゃないので開けた時、不思議そうな顔をしていた。
役場の人たちはまさしく「乾パン」のつもりだったらしい。と言うより、物を理解していなかったようだ。

朝が来ても炎は続いていた。
見守るだけの人たちと消防団。
金網に肘をかけ、5メートルも無い程先で燃えている建屋を見つめている。

J's Coffee Break Station-Yamada_burned_up

タバコを吸い、笑いながら
「次は俺ンちだな。」
「俺んちはなぐなったよ、さっき。」
「ここまでやられりゃ文句もでねーな。」
とか話している。

炎が町のあらかたを焼きつくして勢いが落ち着いた頃、やっと消防車が1台たどり着くと最後の1件の消火を急いだ。

その十数分後ではなかったか。
アナウンスが流れた。

「防災本部からご連絡いたします。ただいま、自衛隊に消火要請いたしました。」

・・・

え・・・今?

・・・

今まで・・・『要請していなかった』の?

なんで・・・?

電話が使えない?他に方法は?車は出せなかったの?
あの発電機はなんだった?

要請後、すぐに飛んできたヘリは2回空中散水して、別の方角へ向かった。
火は消えなかったが、出動はしてくれた。

だが・・・

どういうことだ?

この時点での電話などの通信手段の遮断、電気含めた他のライフライン、どれを取っても状況は震災直後と変化がないはず。
ということは今要請できたのなら、昨晩だってできたはずだ。
その逆も又、真だ。

ん?町長はどこにいた?

町長の認可が下りなければ要請できない手続きは理解できる。
逆に言うと町長がそこにいれば手続きは済んでいたはずだ。
更に、もしそうだとするならば、町長がいなければ緊急の要請さえもできない役場職員の体制、教育はどうなってるんだ?
この惨状をボケっと観ていたのか?
事実はわからないが、憶測ではそうなる。
一ヶ月経った今、町役場が全くまともに機能できていないことを考えると、遠からずはずれちゃいない気がする。


ともあれ火は消えた。


昼過にはコミュニティセンターから豊間根中学校への大移動が始まる。
あの揺れで津波が来ないわけない。

一体何分つづいたんだろう…。

パスポートを受け取りに行こうと部屋を出た瞬間、奇妙な地鳴りがして、小さく床を下から叩きあげるような音が始まった。
音の正体を確認しようと動きを止めて間もなくFOMAの警報が騒ぎ出した。初めて聴いた。
同時に恐ろしく早いスピードで、下から巨大なハンマーで叩きあげられた。
ダダダダダダダダダ!
まずい!
とっさに外に飛び出した。絶対に家が潰れると思ったからだ。高い建物も看板も電柱も無い。家の中より安全だ。
庭に立つと世界中に凄い音が鳴り響いていた。宮城県沖地震とは全く違う。あの時はこの広い庭が波打っていた。今回は違う。全部が上下に動いていた。
親父を探しに行かなきゃ。ところがあまりに揺れが大きすぎて動けない。下手に動いて家の横を通る時、崩れた何かが落ちてくるかも知れなかった。
とにかく揺れが収まるまで少し待とう。
なのに止まらない。むしろどんどん強くなっていく。

それがピタっと止んだ。

そのすきにトランクにノートパソコンをつっこみショルダーバッグを背負い台所に走り込むと、親父のカード類の入った袋をひっつかみ、又始まった揺れの中を外に飛び出した。いつでも東京に戻れるように、自分の物に関しては荷物のうちの大事なものは常にバッグに入れたままにしてあったのが幸いした。

ガガガガと音を立てて揺れる周囲を見ながら親父がどこにいったか考えた。
探しに行こうにも散歩コースをいくつも持っている人だ。
すれ違うわけにいかない。仕方ない、門の前で待っていると、又揺れが来た。
ようやっと向こうから親父がヨタヨタ歩いてくる。
足も悪いが重ねて地面に揺られながら歩いてくる。急いで家に戻ろうとして我慢できなかったのかズボンが濡れていた。
どこのタイミングで津波警報が鳴り響いたか覚えていないが、数メートルの津波が来ると確かにアナウンスが騒ぎ立てていた。
この揺れで津波が来ないわけが無い。

止めても門から階段を下りて玄関へ向かおうとする親父。
家の中は散らかってるから入れないといってもどうしても家の中が見たいと聴かない。
やむなく家に入らせると、今度はズボンを履き変えたいと言い出す。
たしかに濡れたままでは・・・。
親父の部屋に走り込んで別のズボンを取ってくると庭で履き変えさせた。

急がせたいが

「大丈夫だ。ここまで津波はこね~よ。」

と笑っている。

とにかく老人の着替えは時間がかかるが警報から実際の津波到着までは時間があるはずだ。

その間に近所を回ると、やはりみんな残っている。親父と同じだ。

「チリ津波でもここまでは来なかったから、俺はいかねーよ。」

チリ津波(1960年)以前にも、昭和三陸津波(1933年)、明治三陸津波(1896年)3度にわたってこの三陸は津波に襲われている。
彼らはその体験者ではあるが、これらの時とは地形そのものが変わっているし、チリ津波などは地震もなかったし、津波そのもが押し寄せたのは数日後だ。
条件が違っている。
何より、震源地はこの町の沖なんだ。

いくら説得しても一組だけは動こうとしない。

「とにかく逃げられる人は今逃げっぺし!早ぐ!」

呼びかけるだけ呼びかけて急いで親父のところへ戻ると、ようやっとズボンをはき替え終わるところだった。

「早ぐ履いて!」
「大丈夫だあよ。なあに、こねーよここまでは。」

実はこの辺の人たち全ては非常に簡単で大きすぎる検討違いをしていた。

我が家の前の道路は小高い。そして向かって左側にはなだらかな坂を作っていたし、右側は平らで20m先でまた坂を成している。
だからここまで波が上がるなら山田は全滅すると言われて疑いもせずに育った。

ところがだ、道路は高いものの、実は我が家を含めて近所はみな更にそこから1m以上も下に1階と玄関を作っていることに留意していなかった。
道路の位置が高いというイメージだけで安心しきっていたのだ。道路から見ると地下に位置する場所が一階なのだ。
この数十年間、誰もそこに留意していなかったことだって今にしてみれば驚きだ。
いや、留意しなかったのではなく、気づいていてもこの二つが今一つリンクしていなかったというのが正しい。

違う!ここは低いじゃねーか!とやっと本気で気づいた。

我が家の玄関も門から階段を下りて、やはり1m以上下にあった。

「そうかも知れねーげど、地震がおっきすぎっからさ。ここ高ぐねーよ、考えだら。」
「大丈夫だってば。」
笑っている。

「ああ、もう!いいがら、早ぐ!」

そして・・・

今まで一生の内で一度も聴いたことのない音が後頭部の上辺りから聴こえて来た。
キャタピラの動くような、ガラガラ、ゴソゴソ、どどどどど、ごごごごごご、そして波の音などが全部入り混じった不可思議な大きな音が近づいてきた。

「・・・・?」

どんどん近づいてくる。すぐに悟った。

「来た!津波が来た!父さん、早ぐ!急いで!」

おぶるより自力で歩かせた方が絶対に早かった。
手すりにつかまり、不自由な足を動かす親父を軽く押しながらやっとこさ道路に上がった時だ。
左手坂下の角を木材やらゴミの山みたいなものが音を立てて横に流れ出てきたかと思うと、そのままの形状で坂をこちらへ上り始めた。
この時はこの移動するゴミの山がなんなのか見当もついていなかった。

親父はと言えばどうパニクッたのか坂を下ろうとし始めていた。
いや、実際には向かってくる波を見た衝撃で足がすくんだに違いない。
偶然体は波に向いていたから、歩こうとすると波へ向かってしまったみたいだ。
多分、こうして呑みこまれる人もいるに違いない。

「父さん、違う。こっち!」

体こと回転させ、少しでも小高い向かいの駐車場へ押し上げた。
ヨタヨタと短い階段をのぼりかけた途端。

「ここまで来れば大丈夫だべ。」

突然あきらめようとした。
全く、こんな時の老人の判断には驚かされる。なにかが抜け落ちる。油断できない。

「だめだって!上がって!波が来る!」

わずか一人しか通れないような狭い階段だ。
大体にしてここじゃ低すぎるんじゃないか。
この駐車場は墓山の真下にあり、壁伝いに駆け上がれば、一番近い墓所まで走り込める。
かといってそこへ駆けのぼる力は親父にない。
とにかく親父を押し上げた。
正直「俺は間に合わない・・・終わりかな。」と思っていた。

だが、ここで波は止まった。周囲わずか5~6メートルの範囲で止まった。

波の侵攻が止まったことに気づいたのは自分も駐車場に上り切ったときだった。

ゆっくりと瓦礫を残して波が引き始めた。
引いていく波をそろりそろりと追いかける人たち。
どこからどう押し流してきたのか、おびただしい数の瓦礫、ゴミの山。


そして、遠くに立ち上る煙・・・。
これがあの町を焼き尽くした炎の初めだった。

一度家をのぞきに戻った。もう散々だった。
台所や廊下にあった一人二人じゃ動かせない棚類、冷蔵庫、食器棚、全てが字のごとくひっくり返ったり、天地がさかさまだったり。引き出しは全て開け放され、高価な陶器類は全て粉々に砕け散っていた。
洗面所には、裏口のドアを突き破って入って来たプロパンガスのボンベが転がっている。
我が家ではガスは使わない。
一階全てが同じ状態。定位置に収まっている畳なんか一枚もなかった。
Jと姉が小さい頃から使っていたアップライトピアノは斜めに倒れ、妹のセミグランドピアノは足まで浸かった感じだが、多分浮き上がったからだろう、本来なら壁についた波の高さまで浸かるはずだが、濡れていなかった。
いずれにせよ、どちらのピアノももう使えない。

お袋が描き遺した200点以上の作品は全部一階にあったから全滅だろう。

玄関の戸は完全に外れてその辺に転んでいた。

俺の部屋も全て泥まみれ。
キーボードもぐしゃぐしゃに濡れていた。
実は飛び出る時、あの重さのキーボードを一人で二階に運び込む余裕はないように思われたからせめて座布団を乗せて落下物に備えはしたのだが、それごとずぶ濡れだ。

なんとか部屋の中からJのへそくりを見つけ出した。
これから必ず必要になる。逃げる時はそこまで頭が回っていなかった。
だからこれもずぶ濡れ。
後々、避難所のエタノールを使って一部は消毒再生した。


揺れは断続的に続いていた。

又、少し大きめの揺れが始まったので、すぐに部屋を飛び出した。
庭の木々には沢山の紙クズやら、布やらが海草のようにぶら下がり、水天宮の祠は後ろから柱やらタンスやらの残骸に押し倒されていた。
小さいとは言え、一人では戻せない。
裏道路側には残骸が山積みになっているし、古い物置も戸が壊され中身が全部むき出し。
良く見るともう一本ガスボンベが転がっていた。


駐車場に向かった。

やがて、にわかに逃げた人たちの中から声が出始めた。
「おばあちゃんば残してきてしまった・・・。」
家を訊いてもとりとめが無い。

「三郎さんが寝たきりだったのを置いできたあ。」
ヘルパーが泣きながら言った。○○さんの家は知っていた。

第3波の警報が鳴った。

まだ間に合う!先ほどの波とは反対側へ走り出した。
この時瓦礫を飛び越しながら、考えてもいなかった。反対側からも波は押し寄せてきていたのだ。
親父を方向転換させた時、実は津波に挟まれていたのだった。

この近隣の道路ではこの場所、寺小路が一番高い。我が家の門前が最も高い道路、と言うことになる。ここ中心に、更にもう一本下り坂になっているY字路だ。

「ここまで津波が上がるなら山田は全滅だ。」

よくぞ言ってくれた。上がって来たぜ。

ただ、確かに止まった。頂上前で止まった。ここを乗り越えてくる波ならばもう一本の下り坂へなだれ込んだはずだ。もしそうなっていれば被害はもっと大きかったろうし、多分俺たちも呑まれていたろう・・・。

とにかく今は三郎さん宅へ走った。
着くと寝たきりの三郎さんは奥さんに支えられて家の中で、溢れるように引いていく水の中に震えながら下着のまま立っていた。
急がないと次の波が来る。
それにこのままじゃ冷え切ってしまう。待てなかった。まだ引き切らない水の中に走り込み、彼を支えるとやはり玄関前にある階段を上った。そう、この近辺は前述したとおり、ほとんどが道路下に土地を構えていた。
道路の上には数人待ち構えていてくれて、抱える役を交代してくれたのはいいし、方を貸したまではいいが、動かない足を無理やり引きずらせて瓦礫の中を歩かせようとしていた。
全く動かない足を3cmづつ
「よいしょ!よいしょ!」
あきれた菜っ葉の肥やしだ。
これじゃいくらも進めない。
「背負った方がいんじゃないですか?」といえば「そうだ、その方がいい!」とは言うものの、だれも背負おうとはしない。
なんでだ?
もう一度言った。「背負った方がいいんでは?」「そうだな。背負った方がいいかもしれね。」
だけど誰もしゃがまない。

なんだこいつら?

「もういい、俺がやる。」

背負うと、駐車場へ急いだ。

今、何故誰も手を出さなかった?
なんでみんなただ見てた?
俺よりはるかに若い奴らが、背負うのを躊躇して目をそらしたぞ?

駐車場に上がると、とりあえず草むらに三郎さんを横たえた。
やがて奥さんが車椅子を持ってきた。

親父がまたひょこひょこと駐車場から降りて来ていた。

「父さん、降りてくんなってば!戻って!動がないで!」

叱りつけながら、近所へ走った。まだ取り残されているはずだからだ。
さっきの話のおばあさんはどこの家か分からない。けれど、あそこにいたってことは近所のはずだ。

「誰かいますかあ。誰かいますかあ。」
「ここにいますう!誰かあ!助けてえ!」

案の定、声が聴こえた。隣の家だった。ドアはひっくり返った家具で開けられない。窓をむりやりこじ開けると、おばさんが閉じ込められていた。
「Jちゃん、助けてえ」
家の中で天井に届く水の中で浮かびながら耐えていたらしかった。
「おばちゃん!待って、今助けるから!」

近くで見守っていたいた人に役場の人を呼びに走ってもらった。
窓をこじ開けている間に役場の職員たちが到着して、数人で家の中から連れだした。
そのまま、おばさんを裸足のまま、一度我が家の玄関へ連れて行き、もうびしょ濡れでもいいから適当な靴を探して履かせた。
一度、我が家の様子を観に戻ると、ひょっこり親父が下りてきていた。
「おりでくんなって言ってんの!戻って!」
「だって、おめえ・・・」
「良いがら戻って!3波が来っから!」

駐車場のさらに一段50cmほど高いところに連れ戻して、再度近所へ走った。

又、声が聴こえる。見上げると別の家の二階の窓からおばあさんが

「ここ、ここ!」
と手を振っている。

壊れた一階の窓から入ると、階段はゴミで埋め尽くされていた。
ガラガラと足で全部払いのけ、はだしの彼女を二階から下りさせるが、裸足の彼女に階下は歩ける状態じゃない。
靴なんか見当たらない。
仕方ない、足を切りそうなものだけよけて裸足のままなんとか外へ出すと、我が家まで連れて行き、びしょ濡れのお袋が履いていた靴をはかせ、避難所へ急がせた。
途中、プレッシャーから彼女は大量に吐いた。

道路に戻ると消防団が、近くの消火栓にホースをつないでいるところだった。
「家の井戸も使ってください!少しでも使えるかも知れないから。」
と、案内するが、既に津波の汚水がどっぷり流れ込んだ後だった。
しかし水は使える。近所では最も深い井戸だ。
ふと気づくと・・・
又親父がそこにいる。
なんなんだこの人は!

「だぁからぁ、なんで降りてくんのよ!戻れって!」
「だって、おめえ・・・。」
「だってじゃねえ。戻って!」

追い返しながら門まであがると、避難所指定のコミュニティセンターまでの道から水は引いていた。
残骸やらゴミをしこたま残して・・・。
「コミュニティセンターまで行げるね?先に行ってで。」タオルケットを押入れの濡れていないところから引っ張り出すと持たせて先にやった。

もう一度近所へ戻る途中、役場で親父の介護担当をしてくれていた介護福祉士の女性に会う。
「無事だった?」
「それが、おじいちゃんとおばあちゃんを二階に残して・・・。」
「急がないと、次が来るよ。」
「とにかく様子を観に戻ります。」
「気をつけて。」

駐車場に戻ると奥さん、ヘルパーが三郎さんを乗せた車椅子を囲んでいた。
道は残骸がごった返していて車椅子が通れる状態じゃない。
仕方なく裏を遠回りしてコミュニティセンターまで引っ張っていった。
それでも狭い道があり、近所の人たちに手伝ってもらい持ちあげて運んだ。


センターには既に沢山の人が避難していて、近所の人たちもいたし、さきほどのおばさんや、おばあさんもいてくれた。
見知った人たちの生存は確認して、再度飛び出した。
介護福祉士さんの家へ急がなきゃ。

一度荒れた自室にもどり安い懐中電灯を拾い上げると、彼女の家に急いだ。
着いてみると、やはり一階はゴチャゴチャだ。
二階へあがると、彼女とその母、そして毛布にくるまって椅子に座ったおじいちゃんがいた。
薄暗がりなので懐中電灯を点けたが、すぐに消えてしまった・・・
潮水に浸かったせいだろう。
使えないなあ、もう・・・

座ったきり動こうとしないおじいちゃんを必死に説得する彼女。
揺れは断続的に続いている。
このままでは次の大きな揺れで崩れるかも知れない。
津波警報は鳴り続ける。
もう何波目かわからない。
3波目以降はさほどの津波ではないらしかった。
なんとかおじいちゃんを歩きださせると、さらに階段をゆっくり降り、家を出るまでは出た。
その後長く感じた瓦礫の中を10分以上かけて歩かせて道路へあがった。
普通ならば2分とかからない距離だ。
後は彼女に任せて、寝たきりのおばあちゃんを迎えに急いで戻ると、丁度彼女のお兄さんが駆け付けたところだった。
そこからは彼がおばあちゃんを背負い、後ろからJが支えてコミュニティセンターまで移動した。

走って戻った割には、大したことは何もしなかったな。
ただ、いただけだった。
家族が助け出すことができたんだからそれはそれでまあ、いいことだ。
この一家はみんな無事だったわけだから。


センターで飛び交う々言葉。

「まさか本当に来るとは思わなかった・・・。」
「チリ津波では来なかったのに・・・。」


もうすでに夜が来ていた。
タバコを吸って落ち着こうと外へ出た。
既に19:00をまわっていたろう。
オレンジに明るい空はすぐ下の家並みから始まっていた。


火事はすでに数ブロックを焼き進んでいたようだ。

$J's Coffee Break Station-引いていく津波
東日本大震災、大津波のレポートを少しづつ投稿していこうと思います・・・


まずは沢山の方たちに感謝の言葉を。

Jは既に避難所指定されていた山田町豊間根中学校から岩手県岩手郡雫石町にある長栄館という旅館に避難移動しました。
豊間根中学校に避難滞在中(2週間)に食事を欠くことなく提供してくれた方たち(もちろん今なお継続中ですが・・・)がいます。
炊き出しを行い、おにぎりを結び、我が家の米を使い果たしてまで我々に食事を供給していただいている豊間根地区の方たちです。ここからは他の山田町避難所へも配送されました。
我々、豊間根地区避難者が最初に本当に感謝の意を表しなければいけないのは、この方たちです。

本当にありがとうございます。お返ししようもないほどのご恩をいただきました。
Jを含めたボランティアスタッフが避難者全員に滞りなく食事を供給できたのは本当にこのおかげでした。

ありがとうございました。

そして、溢れるほどの物資供給をしていただいた本当に沢山の方たち。
個人単位に、お店単位、企業単位で、数えきれないほどの供給物資をいただき、ひもじい、辛すぎるなどの感情を覚えずに済みました。
おそらく今まだ絶え間なく物資供給が続いていることと思います。

航空自衛隊、陸上自衛隊。毛布、灯油、電力供給に注力いただいた陸中山田駐屯みなさん。

そのほかには仮設トイレをご提供いただいた方々。

被災者であるのに毎日の食事にお料理を提供していただいた方たち。

豊間根中学校の校長先生はじめ諸先生方。先生方の中にも被災して家を無くされた方もいらっしゃいます。

薪や、物干し竿やら、炊き出しの準備やら、何よりディーゼル発電機をお貸しいただいて、高齢者への暖房確保にご尽力いただいた、そして現在、遺体捜索、残骸整備に忙しい建設業の方たち。

共に動いてくれたボランティアスタッフや同級生たち、常駐してくれた山田町役場職員諸氏。

Googleなどに投稿してくれたみんな。こんなに沢山心配されるなどとは夢にも思っていなかった。
本当にありがとう!混乱を懸念して投稿されなかった方たちもいらっしゃると伺いました。
ありがとうございます。
本当にご心配おかけしました。

mixi, facebookで連絡網になってもらったみんな。本当にありがとう!
こうして無事でいます。親父ともども無事でいます。

行き場を失った山田町町民を受け入れてくださった長栄館、雫石町役場、ボランティアスタッフの方たち。
(現在、内陸の各地では同様の受け入れが行われており、沢山の被災者の避難移動が継続中です。)
全ての方たちに感謝します!



*               *               *


次に、言うまでも無くJは今なお被災者であり避難民です。その立場として皆さんに伝えようとしていることはドキュメントであるかもしれないし、単なる推論であるかもしれない。
だから、こんなブログごときで2011年3月11日 14;46から始まったこの震災の凄惨さを伝え切ろうと言うものではありません。
起こったことのわずか0.00000001%にも満たない事実を書いていこうとしているだけです。
星の数以上もいる被災者。その方たち全ての苦しみは代弁できません。Jには伝えられないんです。

例えば、想像できるでしょうか。

6人家族で自分一人だけ生き残ったことを。
目の前で沢山の人達が大波に呑まれていく様を。
呑みこまれたり、流されたのではなく、瞬間で波に叩き潰されて壊滅した部落。
そこには現在も首が無いなどのため身元が確認できない遺体が散乱しています。
離れ小島に打ち上げられ、折り重なっている遺体。
その海の中に散在し、半永久的に回収不可能だろうと言われる無数の遺体。
遺体安置所を回っても、自分の身内があがらない、その気持ち。
(Jの家族は全員無事でしたが親戚が何人か呑みこまれたようです。まだ未確認です。)

・・・・

この惨状を直視しなければいけない理由はなんだ?
と聞かれて、答えられません。

だけど、それならこの惨状から目をそむけて良い理由はなんですか?
上記の数行だけで既に恐ろしくなった方もいることでしょう。
直視しろとも、目をそむけろとも言われていない。
「怖いからあたしはもういい・・・」
「気持ち悪い・・・」
当然です。

Jは全ての沿岸地域を見て回ったわけじゃありません。
ですが、情報だけでも山田町の被害は甚大だったようです。
波に流されなかった家は焼けました。ただただ映画の地獄絵図のように広がる火災を手出しも出来ずにみんな眺めているだけでした。どうしようもなかった。

同じように山田町に限らず、多くの町が壊滅しました。

今回の津波、高さ23メートルと言われていますが、実際に潰れた部落の海抜を考えると50メートルだった可能性があるそうです。

そして全幅230kmに及ぶ大波・・・。

この範囲内に同じような身元不明、回収不可能な遺体がゴミのように散在しているんです。

腕をちぎられ、首をもぎ取られ、半身をもぎとられ、顔を半分潰され。あるいは海の中で腐食していくしかない。
車ごと流されその中で死んでいく。この方たちは顔がわからないなどのため身元不明者であり、行方不明者であり、これからカウントされていく死者であるわけです。合同葬にも加えられない。火葬さえもしてもらえない。
海の中の遺体は引き揚げようとすると崩れてしまうため手をつけられないそうです。


第2波の直後、仙台には300人以上の遺体が浮いていると情報がありました。
けれどこれはほんの手始めだったことはみなさんニュースなどでご存知のことと思います。



被災後に3日ほど経ってから初めて、消えうせた町の真ん中に立った時、一番最初にでたのは涙でした。言葉なんか出なかった。そしてあきれて笑ってしまった。どうにもできなさすぎるから・・・。

この全てを想像できるでしょうか。

いや・・・しなくてもいいかも知れない。当事者たちでさえ自分の周囲以外を想像することはできないのですから。
現実から目をそむけたい方たちはこの辺でJのブログを読むのはやめてください。
「はだしのゲン」を書こうとしているわけではないので・・・。


地震は断続ではなく隙間なく続いています。


Jの故郷は壊滅しました。それでも、今、この町でまだ戦おうとする人たちがいます。

迷いました。上を向くことは目をそむけることなのか。事実を伝えることは後ろ向きなことなのか。
いつものように馬鹿話を作って掲載すれば、それで笑顔でいることになるのか。

でもやはり、彼らを,日本中の壊滅した町でもう一度「根」を張り直そうとする人たちを応援する意味でも、Jは不定期にこのブログをしばらくの間ゆっくりと綴っていこうと思います。

赤  「先輩、知ってますた?オラだぢってさ、名前変わるごどあるんだすって。」

黒  「そうなの?」

赤  「はあ、おどろいだっす。」

半黒 「あだし、それ聞いだごどあるわ。」

黄  「…。」

赤  「海にいるどきど、陸(おか)さ上がったどきどでは名前が違(つが)うんだそうです。」

半黒 「なんだっけな、一回聞いだんだげども、忘れだなあ・・・。」

黒  「なんだや。忘れだのが?

    んだげども、なんが、嫌(や)んだ話だな。

    一回付いだ名前が変わるんだべし?」

半黒 「んだよお。なんだが自分じゃなぐなるみだいで、嫌(や)んだよねえ。」

赤  「どんな名前に変わんだべが。」

黒  「英語みでーなんだらいいげど、中国語みでーだら、カツカツすてて呼ぶのに面倒臭そうだーなー。」

半黒 「あだし、じぇしーどがっていいなあ」

黒  「じぇ~すぃ~!?あーはははは。

    ジェシー?

    おめえがジェシーだら、おらあ、ジャクソンどがになってすまうんでねーが?」

赤  「先輩だぢ、どっつも柄でないですねえ。ははははは。」

黒、半黒「んだべが?」

黒  「ほんなら、おめーは何よ。」

赤  「俺っすか?俺はジョンソンどががいいがな。」

黒  「な~んだや、結局おめーもでねが。」

半黒 「な~んだや。ははははは。」

黄  「…。」

黒  「おう、転校生、おめーはよ。」

黄  「…。」

黒  「ああ、おめーはジョニーどがって言い出すんじゃね~べな!ははははは。」

半黒 「ジャイアンどがさっ!」

赤  「いやあ、それ面白えっすねえ。」

黄  「みなさん…。」

赤、黒、半黒「?」

黄  「全部頭が『J』じゃないですか。」

黒  「あ…あれ?そが?」

黄  「他には思いつかないんです?」

赤  「いや…ほんなら、『B』どがで…。」

黄  「そういう意味じゃないですよっ!バリエーションを言ってるんですよ!」

半黒 「ば…バリエーションって、なんがそんなごど考えで話てねぇよなあ。

     あだしだぢそんなにあだま良ぐないがら…。」

黄  「頭の問題じゃないですよ。世界観のことを言ってるんです。」

赤  「世界観って…。そ~んなに大げさな話でなぐね~すが?」

半黒 「んだよねえ。ただの井戸端会議だものなあ。

     そんなにムギにならねくても…。」

黄  「なりますよ!

    見てください!この向こうは太平洋なんですよ?

    その先には大陸があるんですよ?」

赤、黒、半黒「…はあ。」

黄  「そこには『J』のつく名前の人ばっか住んでるわけじゃないんだ!

    アンソニーもいれば、キャンディもいるんですよ。」

赤  「そら、そうだげど…。」

黄  「なのに出てくるのは頭『J』の名前ばっかりでバリエーション少ないにも程があります!大体にして…。」

黒  「おい。」

黄  「はい。」

黒  「おめー、都会がら来たのがそんなに自慢だが?」

黄  「いや、そんな訳じゃ…。

    気を悪くしたのなら謝ります。すいません。けれど…。」

黒  「ふざげでんでね~ぞ、こら、気取りやがって。

    知識人がいるのは都会ばっかでぁねんだーぞ?

    大体にしてが標準語が気にいらねぇんだ、標準語が。」

赤  「ちょ…先輩…」

半黒 「いあや、あだしもそう思う。なんが勘に障る。」

黄  「気取ってなんかいませんよ。真実を話してるんです。

    今ここで起きてることを話しているんです。」

黒  「なんだ?面白れえが。面白れえんでねーが?何が起きてんだよ。教えてけろ。」

黄  「思考、想像の停滞、後退です。」

赤、黒、半黒「は?」

黒  「しこ…?て…てい…?」

半黒 「まだ、わがんね~ごど言い出したが?」

赤  「いっつも難しいんだよなあ、おめ~の言うごだぁ。」

黄  「難しいことじゃないんです。

    僕は先へ、未来へ進みたいんです。

    なのに、みなさんは同じところをぐるぐると回ってる気がする。」

黒  「仕方ないんでね~が。おらだづはこういう風に生まれできたんだがや。」

赤  「んだよ。」

半黒「んだよねえ。」

黄  「そうです。そうなんです。こういう存在の仕方しか許されていなんです。」

黒  「存在…て…。」

黄  「勿論、宇宙規模で考えればこの問題の打破は不可能です。

    けれど、これらはすべてマテリアリズムの中枢概念に依存し過ぎた、それは至極単純な概論でしかないんです。

    観念論的にはそうではない。

    我々は別の形態をもって、そう、思考の中では別の存在の仕方が可能なんだ。」

黒  「…。」

赤  「…。」

半黒 「…。」

黄  「ナノグラムの重量を持つ物質でさえもそれより小さな重量、質量を持つ元素から構成されているんです。

    それぞれの元素に名前をつけたのは誰ですか?誰だと思います?」

黒  「…し…しらねぇよぉ、そんなのぉ…。なあ。」

赤  「知らねえす。…ニュー…トン?」

半黒 「あんだ、なんぼなんでも、そりゃあ違うよぉ。ダ…ダーウィン?」

黄  「どっちも違う!いろんな発見者の名前やなんやかやです。」

黒  「おいおい、出たよ。なんやかや、ってなんだよ。」

赤  「そうだよ。しらね~んじゃね~の?本当は?」

黄  「いや、そんなことは…。」

半黒 「あ~、ごまかしてんだな?

     んだ、ぜってぇ、んだよ。知らねえなら話にだすなよ、あんだ。」

黒  「な、な…なんだよぉ。

    一瞬、人を尊敬のまなざしにさせやがってえ。なあ。」

赤  「そうすよ。おら、一瞬、先輩よりすんげぇのがと思ったもの。」

黄  「いや、だから…。」

黒  「な~にを言ってんだが。おらはなんにもすごくね~べよ(照)」

半黒 「まだ、まだ。謙遜、謙遜。」

黒  「そんなごどぁね~んだってば(照)」

黄  「言いたいことはそんなことじゃない!」

黒  「な…なんだよ。」

黄  「元素に限らず色んなものは正式名称が決まるまでは仮称で呼ばれるんです。

    番号とか、ある規定のルールに従ったね。」

黒  「ほんなら、俺は1番だ。」

赤  「あ、俺2番取っぴ!」

黄  「あの…ちょっと…」

半黒 「あら、あんだ先輩のあだしより先を取るの?」

赤  「あ、すんません。じゃ、3番で。」

半黒 「いやいや、ほしたら、1番は長老でね~の?

    一番最初っからここさブラ下がってるんだから。」

黒  「お、そういやそうだ。じゃ、次は姉さんが2番か。」

黄  「みなさん、そうではなくって…」

赤  「でば、俺4番だ。」

黒  「ほんだら、おめ~は5番だな。」

半黒 「そうだよねえ、最後にブラ下がったもんね。」

黄  「あ、僕は何番でも…。

    て、そうじゃなくって!

    話はそうではなくって、だから、我々にとっても名前は単に概念的に認識しやすくしているだけであって、

    それが変わるからといって…」

黒  「いや、ちょとまて?番号は面白ぐなぐね~が?アルファベットどがさ。」

半黒 「ほんだね。そひたら、あだし英語の名前がいいなあ。」

赤  「俺もそうだな。」

黒  「ほんじゃ、姉さんはジェシーだな。」

半黒 「じぇ~し~?じぇし~かあ。恥(はづ)がすいな、なんだが。」

黄  「ちょっとみなさん…。」

赤  「先輩はジャクソンで、なじょですか?」

黒  「いいねえ。いいねえ。」

黄  「話が回ってます!回ってますって!

    しかも立場微妙に変わりながら、ぐるぐるぐるぐる!」

黒  「うるせ~!おめえのなんだが小難しい話ば目がまわんだよ。ぐるぐるぐるぐる!」

黄  「こんな程度で目を回さないでください!ぐるぐるぐるぐる!大事なことです!」

黒  「俺はどうでもいいの!回るもんはまわんだよ!ぐるぐるぐるぐる!」

黄  「そんなだから、いつもこんなとこにぶら下がってるんですよ!ぶらぶらぶらぶら!」

黒  「そんなごど言って、降りれんのが、おめ~は?

    ああ?

    降りれね~べ?降りれるわげね~べ?ぶらぶらぶらぶら!」

黄  「降りることが目的じゃないんです!」

黒  「なにが目的だ!何が狙いだ!このやろ~。おらおらおらおら!」

赤  「陰謀が?策略が?計画的犯行が?

    あ~、あの娘をさらったのは、さてはおめ~が!?おらおらおらおら!」

黄  「あの娘…?」

半黒 「なんて奴!ろくでなし!鬼!

     いくら欲しいの?なんぼだけ金がいるのさ?

     おらおらおらおら!」

黄  「いらないですよ!誰ですかあの娘って!」

黒  「いらない?じゃ、何が欲しんだ。なんにもくれるものはねぇんだぞ?」

半黒 「娘も無けりゃ、息子もね~し。こんなだがらさ、おらだづ!」

赤  「わがった!わがったぞ!こっから降りようとしてんだ!」

黒  「な~に~?なんだと~?降りるだ~?

    これがおれだぢの仕事だぞ!

    ここにいんのが、おれだぢの仕事だぞ!」

赤  「んだよ、んだよ。なに言い出すんだがよお、転校生!」

黄  「だから、さっきからそう…。」

半黒 「長老!長老!不届ぎものだが。不届ぎものがこごにいるだが!」

黒  「長老!これぁ締めてやりましょう。こんなの許されるもんでね~がす。」

赤  「なんだ~その顔。長老さむがってぇ。転校生、おお?」

黒  「長老!」

半黒 「長老!」

赤  「長老!」

黄  「長老、違います!違い…」

金  「やがまし!」

全員 「しーん…」

金  「海では『烏賊』。

    陸では『するめ』。

    飲み屋で焼いて出されっど『あたり女』。」

全員 「…」

金  「それ以上も、それ以下もねっ!いが?」

全員 「…」

金  「…。」

全員 「おおおおお…。

    さすが、長老…。だてに最初に作られてね~な。な。な?」

黒  「何が以上で、何が以下だかわがんねげど説得力はすげ!」

赤  「…ん?それって…喰われるってことが?焼いて食われるっつごどが?」

半黒 「ええええ?そら、大変だ!あだし、まだ処女だよ~?」

赤  「そうなんすか?」

半黒 「なんが文句あるが?見るが?」

赤  「い、い、い、いらね~べ~、んなもん!」

半黒 「あんだど~?」

黒  「こらこら、そんなごどどうでもいいべ!

    それより急いで逃げね~と大変でねだが。」

半黒 「んなこど言ったっで、こんなんなっててどうやって逃げんのよ、あだしだづ??」

黒  「揉み切れ!ふりほどけ!」

赤  「無理っす~(ToT)」

金  「海神さまが来っぞ~~~!」

黒  「長老!だめだ~~、もう、だめだ~~~!村はもう守れね~だ~~!」

半黒 「あんだも早く逃げる準備しな!」

黄  「いや、僕は残ります。ここを見届けるんだ!

    逃げられないなら、科学者の立場としてここからみんなの無事を見届けます!

    僕にはその義務がある!」

赤  「おい~~。いじましいごと言ってる場合がよ!」

金  「波が来っぞ~~~!海神様は目の前だべ~~~~!」

半黒 「うわああああああ~~~~!」

黒  「おわああああ~~~~~!」

俺  「おい。」


黒  「ひぇええええええ~~~。…え?」


俺  「おい。」


金  「海神さまがあああああ!」

半黒 「ぐやあああああああ。」

赤  「ぐおおおおお」

黄  「しくしくしく。」


俺  「おい!お前ら!」


金  「海神さまがあああああ!」

半黒 「ぐやあああああああ。」

赤  「ぐおおおおお」

黄  「しくしくしく。」

黒  「ひょ…え…。」


俺  「やめろ!」


黒  「…。」

赤  「ぐおおお…お…。…。」

金  「海神さまがあああああ!」

黒  「…お、おい、長老。」

金  「海神さまがあああああ!」

黒  「…やめるべ。長老。お客さん、おごってるべ。」

金  「海神…さま…が…。へ…?。」


黒、半黒、赤「…。」


俺  「お前らいっつもこんなことやってんの?」


黒  「あ…いや、まあ、大体…。だってなあ…。」

赤  「暇だものなあ…。」


俺  「ちゅか、さっきの唯物論だの、観念論だの、元素だの。

    なんだよあの適当な論説は。」


黄  「…すいません…。」

金  「海神さま…。」


俺  「もういいって。後でやり直してくれ。疲れるわ、お前ら。」


半黒 「あだしだづ、何かやりました?」


俺  「うるせえの。普通に。お前ら、海も知らないわけじゃん?

    どっから海神様とか来たんだよ。」


金  「そら、その…別のお客さん…。」


俺  「そか。毎日いろんな人乗ってくるもんな。

    劇団員とかいたんだ。ま、いいや。ちょっと今は静かに頼むわ。な。」


黒  「失敗だ…。今日は失敗したんだ…。」

赤  「先輩が盛り上げようって言うがらあ…。」

半黒 「わがるお客さんが乗って来るっつって、みんなして盛り上げねばなんねって頑張ったんですけども…。」

金  「脚本が悪いんでねが?そうですよね?脚本が悪りがったですよね、お客さん?」

黄  「僕ですか?僕?なんで?分かる人乗ってくるの珍しいから、急いで。でも、がんばったのに~・・・。」


俺  「こそこそしゃべんなよ。つか、脚本があるんだ、lこれ…。」


黒  「はあ、一応。ちゅか、難しい話すっからでねが?」

金  「んだよ、んだよ。難しすぎるんだよ。すいません~お客さん~~(泣)」

半黒 「んだ、んだ。んだよ、きっと~。」

赤  「やっぱ、そこだべ。こりゃ、失敗だ~!これは面白れえ、てみんなが言うがら~~~」

黄  「ええええ?本当に失敗だったのかああああ!ごめんなさいいいい~~~。」

金  「失敗だ、失敗だあ~~~~。」

黒、赤、半黒「失敗だあ、失敗だあああああ。」


俺   「うるさい!」


全員 「…。すいません。」


          *             *              *


運転手「この辺ですか?」

俺   「あ、はい。あの青の信号過ぎたあたりで右折してください。」

運転手「全く、この辺、夜は静かですよね。

     たまにお客さん乗せてきますけど、帰りは静かすぎてさびしくなるんですよね。

     ご自宅ですか?」

俺   「いや、友人の家があるんで。そうですか、静かですかあ…。」


全員「(*―_―*)。。。」


運転手「何か出るんじゃないかって思う時ありますよ。特に車ん中は静かですからねえ。

     よく聞くでしょ、タクシーの話。今は昼だからまあ、平気ですけどね。」

俺   「そうですね。まあ、平気じゃないですか?この車は。」

運転手「そうですか?お客さん、霊感とかあるですか?」

俺   「そうじゃないですけど、そんな気がするだけです。」

運転手「そうですかあ…。」

俺   「もうすでに5匹もいるし。」

運転手「え?」

俺   「いえいえ、友人がね、犬を5匹飼ってるんですよ。

     ああ、ここでいいです。いくら?」

運転手「ありがとうございました。お忘れ物ありませんように。」

俺   「大丈夫です。

     ああ、それとね。耳を澄ますとね、結構楽しいですよ。色んな音が。」

運転手「自然の音ですか?」

俺   「まあ、そんなとこですね。それじゃ。」

運転手「ありがとうございました~。」


黒   「あの、ありがとうございました。すんませんでした…。」

金   「次はもちっと面白くやりますんで、又乗ってください。」


俺   「…はいよ。」


全員  「おお、いがった~。今日はホントすいんませんでした~。」



           *           *            *


俺   「行ったか。

     誰が作ったんだろ。随分とまあ、生気を吹き込んもんだねえ…。

     しばらくはうるせ~な、あの車ん中。

     しっかし、笑える。面白かった。」


全員  「さいなら~。ま~た乗ってくださいいいぃぃぃぃ・・・。」


俺   「まあだ、やってるよ。うるせ~ぬいぐるみども(笑)。」



J's Coffee Break Station-5匹のぶら下がり

はい、どんとはれ。

~~~~~~♪



なんか、小さな虫の鳴き声みたいな歌声が聞こえる。



~~~~~♪



一時雨に雨宿りしたこの木だ。


みると、木の幹が抜け落ちたところに、キツツキが掘ったみたいな穴があって、そこから聴こえる。
覗くと、ちっちゃい、白いなんかが座ってる。

楽しそうに歌ってる。



「何してんの?」
「雨宿り♪」


「なにもの?」
「観音♪」


「・・・」


腑に落ちなかった。


「観音?」
「うん、観音♪」


「・・・。地蔵では、決してない?」
「うん、観音♪」


「なして、こんなとこにいるの?」
「修行♪」


「・・・」


宗厳さのかけらもないこいつは自分を「観音」だという。
解脱したのか?
どうやって?
修行した?
どんな?


「ねえ、観音ってさ、仏様なんだよね?」
「うん♪」


「その『よだれかけ』、あきらかに地蔵だよね?」


一応、奴は自分の首にかかる真っ赤な『よだれかけ』を観た。


「ううん。観音なんだよ。」


奴はもう一度俺を見上げると必死に首を振りながら否定した。

「いや、気づいてないのか、思いこもうとしてんのか知らないけど、お前さん、地蔵だよ。」


「違うよ。」
「い~や、違くない。勘違いしてるって、自分でさ。」


「違うよ。違うよ。」
「違くないよ。違くないよ。:( ̄∀ ̄)」



くくく。なんか面白くなってきた。


「違うよ、違うよ、違うよ!」



奴はだんだん泣きそうになってきた。
なもんで、こっちも意地悪そうに泣き真似しながら言ってやった。


「違くないよ、違くないよ、違くないよ~!( ̄∀ ̄)」


ついに奴は泣きだした。


「違う!違う!違う!違う!」
「違くない!違くない!違くない!違くない!!( ̄∀ ̄)」」


あははははは。

面白れ~~。

こいつ、勘違いしてんだろうけど、おんもしれ~わ。


だけどさ、それよりも、ちょっとやばいことに気づいた。

相手が本当に観音だろうが、地蔵だろうがそっち系であることは見るからに間違いないよな。
そんで、俺は絶対、こいつのこと小馬鹿にしてるんだよな。

てことは…どっち道、なんかの罰あたりは免れなくないか?


ん~…これはまずいか?


どんな罰だ?



たたり?



転生したら、虫ケラになってる?



いや、その前に苦しみながら現世を生き続ける羽目になる?



死んだら魂はどうなるの?



どっかの岩場にとじこめられたりして。


ほんでもって、縛り付けられてんの。



俺は必死で叫んでるんだ。



「なんで、俺が~~~~!(/TДT)/」


「自業自得よ!愚か者目が!(`Δ´)」


とかいって閻魔さまか誰かが(誰かって誰だよ)


「鞭打ち100万回の刑~!」


つって


「ひえ~~~~~。ごめんなさい~~~!」
「ならん、ならん~~!」


ビシ~~っ、バシ~~~っ

「おおお!のおおお!ぐおおおお!」




とかって10回位やられた辺りに、な、な、な、なんと助け船だぞおお????



「お待ちください!(゙ `-´)/」


つって、妙に艶めかしい白い薄手の布だけはおった天女みたいな飛びっきりの美女ドキドキが岩柱の陰から登場だあ~っ!


「これはあってはならないことです!」


来た、来た、来た~!



「邪魔立てするな弁天!」


なにょ~~~?

うぴょ~。弁天だぜ、弁天!どーりで色っぺードキドキわけだよ!



「私のこの羽衣に免じて、お許しなるわけにはいきませんか?
 これ以上は私たちの歴史に傷をつけることになります。
 それとも、又あの過去を繰り返すおつもりですか?
 ならば、私も手加減はしませんよ!」



何があった?羽衣になにが隠されてんだ?


あの綺麗な素敵なお肌以外に、まだなんかかくされてんのかあああ?

あはははo(*^▽^*)o。


いや、いや、それどころじゃないのだった。

手加減しないって、戦争か?やばくね~か、それ?


俺はなんのカギなんだ?なんで助ける?


惚れたか?

そりゃ、ないか、はは(⌒∇⌒;)ゞ


まあ、どうでもいいや、そんなこと。


で、


どうするよ、どうするよ?(・ω・;|||


「うぬううう…。」


つって、鞭打ち男はやむなく手を引いて、俺を解放するんだ。



おお…、すげえ~。


弁天、強ええ…∑ヾ( ̄0 ̄;ノ


解放された俺は何がなんだかわからん間に目の前で世界が暗くなった。
そう、クラっと倒れた。
するとだ!


ふわ~って飛んできて、倒れ切る前に抱きすくめる弁天様アああああ~


ん~、いいに・ほ・い♪(///∇//)


そして彼女は俺を励ますんだ。



「しっかり!」

「は・・・はひ・・・」

って、できっかよ~、こんな状態でえ~。


もう、くらくらクラクラ。
くらくらクララ
クララハイジ
レイホフレイホフレ~イ~ホ~♪


あはははは。


もう天国う~♪
そして彼女の胸の中に気絶していく~~~~~~~ラブラブ



ほれへへえええ♪
はれへええええ♪


えへドキドキえへドキドキえへドキドキ


もう、世の中なんて終ってしまえ~~~

(ノ´▽`)ノ♪


えへドキドキえへドキドキえへドキドキ




やがて彼女は子守唄のように唄い出す。


俺の傷を癒すように唄い出す。
か細い声で。そう、どこかで聴いたようなあの声で…


~~~~~~♪


そう、どっかで聴いた…

あん?


~~~~~~♪


「なんだよ、地蔵の声かよ。」


ん~…


正気に戻っちまった。
どうやら、相当な時間、耽ったな、こりゃ。
久しぶりにやっちまった。

『青い木馬』のデュークロッサン以来だな。


「はあ…。」


相変わらず、小っちゃい奴は楽しそうに唄ってる。
自分がアホらしくなった。

勘違いもはなはだしい。



「ところで、地蔵さ。」


「観音。」


いや、だからさ~・・・こん罰あたりめがっ!

J's Coffee Break Station-地蔵




はい、どんとはれ。

散る桜が流れずにとどまった小川一面を覆い隠していた。
その綺麗さに数人がカメラを構えたり、中腰で見入ったりしている。
風は冷たくなりきらないとは言え、やはりまだ冷たい。
でも、もう雪は降らないだろう。
俺はずっと桜の川に見入っていた。
気づくと、さっきまでいた人たちはいなくなっていた。
いや、もう一人この小川を眺める女性。
ずいぶん華やかな、でも薄手のシルクのような衣装だ。
スカートは大きなフリルが上品についている。
季節的にはまだ寒いと思うのだが。
成人式?
いや、もう少し歳は上に感じる。
明るいピンクと白のグラデーションが年齢を混乱させてるんだ、きっと。
小川をじっと眺めている。
何か思いを馳せる経験が、これと似たような風景にあるのだろうか。
俺は前を向いたまま、視界の端っこで彼女を見ていた。
風が腰くらいの角度で下からゆるく吹きあげると、彼女の栗色の長い髪全体をふんわりと宙に浮かせた。
知らない顔。でも綺麗だ。まなざしは遠くを、小川の中の更に向こうを見つめるようだった。
ゆっくりと彼女が息を吸うのがわかった。
真っすぐ向こうを指さすと・・・


叫んだ。


「あかたんっ!」
「!?」


別を指さして


「あおたんっ!」
「え?」


今度は向こうを指さして


「ぼうずっ!」


は・・花札?
なに?なに?なに?


「猪鹿蝶っ!」

「雨っ!」


あっちこち指さしては次々花札の手を叫ぶ。
ついついこっちもつられてゆびの指す方を「あっちむいてほい」してしまう。


「月見で一杯っ!」


ん~、どっちかつったら「花見で一杯」じゃ・・・


って呟こうとしたら


突然こっちをくるって向いた!


俺はギクっとして目ん玉むいた。いきなり総毛立った。


だって、こえ~んだもん。



これだよ。
ちょっとでもときめいた俺が間違いだった。
ちょっとでも「うほほ~♪」とか喜んだ俺がバカだった。
このシチュエーションでまともな人間が俺の傍にいるわけね~じゃんよ。
やっぱ来やがったんだ、妖怪なんとかだ。


そして、



「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」

あちこち指さしながら「あかよろし」を連呼し始めた。

でも目はずっと俺を見てる。


「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」


いつまでもいつまでも。


「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」


あんまりの迫力に無言のまま身動きもできず、呆然と彼女を見ていた。
その間あちこちさす指が俺に止まることはなかった。
やがてくるっと踵を返すと、丘の方へむかって一人大行進のように歩き始めた。


「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」
「あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!あかよろしっ!」


なんだ、なんだ、なんだ?
なに妖怪だよ、こいつ(泣)

妖怪は丘まで上がると仁王立ちして腕をまっすぐ空へ上げ天を指さすと


「あか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


と一叫びしてそのまま動きを止めた。

俺はてっきり「ばあちゃんが言っていた・・・。(カブト知ってますか?)」とかやるのかと思ったんだけど、まあ、そりゃないよね。


妖怪女はゆっくりと手を下すと、

「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」

と言いながら丘を下ってきた。
やたら姿勢がいいのなんのって。一人で行進してんだもんな。


今度は「よろし」を口にするたびに「グッジョブ!」の形に立てた親指を胸に向けながら。
どうやら「あか」は今まとめて全部言い切ったらしい。
残りの「よろし」を連呼し始めた。


近寄ってくるよ。
「よろし、よろし」って寄ってくるよ
いやだな~・・・

と、3m程先で止まった・・・


俺は二、三歩後ずさるった。
すると…
彼女も二、三歩下がってとどまった。

ん?

一歩前に出ると、彼女も同じだけ出てとどまった。
一つ動く度に一つ「よろし」と「グッジョブ!」。

こりゃ、どうしたもんか?

もう一度三歩下がると、彼女三歩下がる。
二歩近付くと、向こうも・・・
「よろしっ!よろしっ!」当然「グッジョブ!グッジョブ!」は付いてくる。



お・・・襲ってくるわけじゃないんだな。
と同時に溜息が出た。



今度は当てず寄らず攻撃かよ。
ったく、いろんな妖怪が居やがる。


「あのさ・・・。」
「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」

おお。止まったまま又始めたぞ?


「何やりたいの?」
「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」
「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」
「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」
「よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!よろしっ!」

だんだん「よろし」が違う言葉に聴こえてきた。


「ゆろしっ!ゆろしっ!ゆろしっ!ゆろしっ!ゆろしっ!」



あ・・あれ?



「ゆるしっ!ゆるしっ!ゆるしっ!ゆるしっ!ゆるしっ!」


なんか、前にも同じような経験渋谷でしたなあ。
あの時は紫陽花のお化け軍団だった。



「ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!」

「・・・」


「ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!ゆるすっ!」

「ゆ・る・す・・・?」


突然彼女の叫びと動きが止まった。

じっと俺を見ている。



なんだっけ?



そうだ、そうだ、俺は桜が敷き詰められた小川を見ながら一人の女性を考えていたんだった。

今までどうしても許せなかったんだ。

俺自身のプライドもある。

けれど、状況もわきまえずに傷つけられたことがどうしても許せなかった。

たとえばダイエット中に好物の「大仏様のおへそ」を土産にされて食わないからと怒られたらどうだろう?
同じように、たとえば鬱状態の時に突き放されたらどうだろう?
たとえば死を直視した後、誕生日におめでとうは言えない。だから幸せになれないと言われたらどうだろう?

その無思慮さが許せなかった。
その経験値の低さが許せなかった。




けれど…



そっか…



許さなきゃいけない時期に来てるんだな…。


何もかもさ。



許さなくても何も起こらない。
許したって何も返りはしない。


でも、許したら多分軽くなれる。


だって、重さの原因はその前に傷つけてしまった後悔も積ってるんだから。


俺は今まで沢山許されてきた。
だから許してあげなきゃいけない。


又、思い出した。



そうだよな。



許されたって、許されなくったって幸せになっていいんだ。
許したって、許さなくったって幸せになっていいんだ。


だったら軽くなる方を選べばいいじゃん。




一瞬消えていた視界が戻ってきた。



彼女はそこに立っていた。


にっこりほほ笑んでいた。


ゆっくりと桜が覆う小川に足を入れると、桜の上に浮かんだ。



間もなくスーッと消えていった。



妖怪女の消えた場所をただ見つめた。


風が吹き、常盤色の草木を抜けてきた桜吹雪が新しい無数の花弁をその跡に舞い落としていった。

そうだよね。

幸せになれ。



中腰で小川に見入った時。


いきなし桜の中から手がにゅっっと飛びだしてきた!
驚く俺の目の前で手は親指だけ残してグっと握られた。

「グッジョブ!」



キャリーかよ…




J's Coffee Break Station-さくらかわ



はい、どんと晴れ。


珍獣オアシスでした。
なんか妙に充実していたライブでした。
オーガナイザーともろーさん相変わらず暴れる暴れる。
丘由宇ちゃんのバックでピアノやった。メロディーが綺麗だったからオブリしやすい。イイ感じ。本当の意味でこれからのボーカリスト。
タートルズは生初。普通にヤバいというか痛い(笑)Project2はコンビネーションありすぎですよ(笑)


出会いはどこにでも転がってるけど、ひろえるのは一瞬の判断力に依存しますよね。
てなことで、又、当分の間、ライブも東京もないなあ…
な、徒然。
この下の「Jくんのもちもちの木ばなし」シリーズいくつか?の「霊能者の悲劇」について問い合わせがありました。
まあ、要約すると「本当の話ですか?」というこっちゃでした。

はい。

実はこれですね。
50%ドキュメントです。
どういうことかと言うと、随分昔ではあったんですが、まだiModeが出たばっかのころだったか、まだMOVAが並行して売ってたような時代です。
まあ、そうは言ってもJのはFOMAですよ。
初期のTV電話す。
インターネットは出来てました。
とあるIMODE専用ページの中で、一人和尚さんが霊能占いをやるって言うんです。

Jはサクっと飛び付いたんですよ。

で、まずメールを出しました。
そしたら、「冷やかしでないことを確認するために数日後にこちらからメールします。それに返信してください。」
ですとさ。
数日後、そのメールが来たんで、返信しました。

「・・・なして、こんなで冷やかしじゃないってわかるんだろ?」

次に「詳細を教えてください。」
とメールが来た。
何かと言えば
「生年月日」
「本名(偽名はだめです)」
「性別」
「出身」
「お住まい」
「職業」
「結婚」
「悩みの内容」
「どうありたいか?」
随分多いな・・・

もう怪しいですよね。

一応サイトにはどこそこで修行した、なんちゃらって名前の坊さんで、霊験あらたかで・・・と謳ってあるんです。

まあ、出しましたよ。
ただね、ここまで前情報を要求されちゃうと、書いてる間に観てもらわなくてもいいような気持ちが一杯になったんですよ。
ここまで情報あったら、後は占わんでもはったりと勘で当たる確率あがんだろうがさ。

な、もんだから、もうすでに冷やかしになってます。※渡した情報はマジです。


さらに二日だか三日後です。
鑑定の結果がでたそうで。
ところがこいつはアホで、あんだけしこたま情報くれてやったのに、ことごとく外してきやがったわけですよ。

さて内容は言えば…物語の通り。
「墓が汚い、墓参りしてない、年に3回はしろ。ちゃんと帰省しなさい。ご先祖が怒ってます。」
で、メールで返しましたよね。
「ちゃんと墓参りはしてるし、綺麗にしているし、帰省してるんだけど?冷やかしじゃないからちゃんと答えてくれ!こっち真剣なんです!」
って。

それっきりですよ。ノーリプライ!¬( ̄ ノ ̄;)г

なんの能力もないの、この人。


なんで、この物語に決めたかっていうと、なんとなく言いたかった。
最近は真面目にお仕事されている占いの女性に観ていただきました。
彼女本人にも言いましたが、普段、決して占いの類には傾倒しない性質なので、それは了承した上で鑑てくれ、と。

前情報なしでかなりの確率でした。
鑑定結果を沢山電子データに書いて送っていただきました。

もう一方、やはり女性がいらっしゃいまして、こちらの方も前情報なし。
良い確率でした。
電話で、長々と、質問らしいこともせずに結果だけを伝えていただきました。

やはり真面目に、というより真剣に向き合っていらっしゃる方たちはこうなるんです。
霊能があるかないか問題じゃない。
真剣にやってれば、必要なある種の職業勘のようなものもしっかり養うんだと思います。

例の手ブレ写真が撮れた時、この雲泥の両者が頭に浮かんだんで、「泥」への卑下と「雲」への賛美を兼ねて書きました。

Jはお金を払う時、占いは真剣です。
ですから、一年とか二年に一回も見てもらうことはありません。
というか、信じてない。

この「雲」の人たちが語ってくれたのは未来ではなく方針でした。
前情報なしで現状を読み取る力のある方たちです。
これはすごい!

比べて・・・

「泥」のくそ和尚は先祖を悪者にしてくれました。
怪談も怖くなきゃ、オカルト幽霊の存在さえも信じないけど、祖先の霊は大事に思ってるんです。

それを、それを・・・

占い師がどうこうじゃないでんす。このナマ糞ボウズだけが許せない!

俺の、俺の純情を踏みにじりやがって・・・
なんのこっちゃか・・・

な、徒然でした。


p.s.あ・・一応、Jも霊魂系?まあ、そっち系、経験ありますよ。けっこう。でもぜんっぜん信じない(笑)